飯田旧市街「丘の上」 失われた時が編む坂と路地。

天竜川の河岸段丘上にある飯田の旧市街地「丘の上」を、初めて訪れたのは、1979年の夏。
あれからもう30年近く経つというのに、この丘の上の小さな街の静謐さやぬくもり、
過去の時間がそのまま残っているかのような佇まいは、いまだに私を魅了してやまない。
拙著『丘の上の小さな街で』(エイ文庫)の舞台イメージの街でもあります。
(タイトルの小説に出てくる空間や場所のすべてが現実に類似しているというわけではありません)


古都と呼べるほど規模の大きい古い町並みがあるのでもない。
伊那谷の南の果て、掌のような数q四方に、
かつて城下だった静かな坂の街があるだけです。

にもかかわらず、飯田は私にとって忘れがたい地となった。
この街にあるものは、おそらくある時代までは、
全国の至るところにみられたものだっただろう。

それが、今はほとんどここにしか残っていないように思われる。
いわば、日本の原風景のような町。
この街を訪れることは、この国の美しかった過去を
訪れることにも似ているのかもしれません。

        
飯田には、物腰がやわらかく穏やかな人が多い。
そういうことの反映なのか、自分たちの住む街の美しさに
ついても、これまで控えめな評価だった様子。

最近、旧市街地周辺の桜の美しさが、広く評判になり、
ずいぶん多くの人がよそから訪れるようになりました。

しかし、飯田の桜は、花見の喧騒などとは無縁のようです。
その時期まだ寒いせいもあろうが、桜の下で
うるさい宴会をやるような人は誰もいない。
ただ静かに、桜をじっと見上げている人ばかりが目立ちます。

飯田の旧市街地は、その東側を流れる天竜川よりも、
約100mほどの標高差がある河岸段丘上に位置している。
「丘の上」という名称はここに由来しています。

段丘上に上がる道はえてしてなかなかの坂だったりしますけど
段丘の上では、坂の傾斜はそれほどでもなく、
スポーツサイクルだったら問題なく走れるレベルです。

郊外化は中央高速IC付近のバイパス沿いで進んだので、
むしろ旧市街地は車もそれほど多くなく、
静かな雰囲気が保たれています。
古都とまでは言えないものの、旧市街地には
かなり多くの旧跡があります。菱田春草などの文化人を
数多く生んだ土地柄が偲ばれます。

画像は、飯田市立図書館横の「赤門」。
かつての飯田城址の痕跡をとどめるもののひとつです。

市内は戦後間もない昭和22年に大火に遭い、
古い町並みの大半は灰燼に帰しましたが、
昭和の香りを残す店舗や路地は、いまだに健在。
特に中高年の方はたまらない懐かしさにひたれるでしょう。
飯田の食文化は「おたぐり」などでも有名ですけど、
案外知られていないのが、独特のラーメン、というか中華そば。麺はやわらかめ、スープは薄口、という、
非常に昔風の仕立てになっているお店が多いです。

私はこれを「ゆるゆるラーメン」と名づけたのですが、
多くの市民はこれが普通と思っているようです(^^)。

やわらかめの麺にも最初はやや驚きましたが、
今ではすっかり気に入っております。
上級者向きのお店では、「歯ぐきで食べられる」とか(^^)。

飯田はもともと城下町でありますゆえ、
茶の湯の文化が発達しており、その影響か和菓子のお店も
非常に多く、ブロックにひとつあるんじゃないかと思うくらい。

庶民的な餅菓子系もおすすめのところなどあって、
私はよく自転車散歩中に立ち寄ったりします。


画像のみたらしだんごなど、わずか二本買っただけなのに、
きちんと包んで紙紐で結んでくれてます。
そういう昭和のお店がどっこい元気にやってたりします。

「丘の上」については、それで本が一冊書けるくらいなので
これからもまたいろいろご紹介したいと思いますが、
自転車の一人旅や、静かな街の面白さを好むような方なら、
きっと琴線にふれるものがあると思います。
最近、少しずつ、「丘の上」も変わり始めています。
物事は変化するのです。


拙著『丘の上の小さな街で(エイ文庫)についてはこちら

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藤田敏八監督の『帰らざる日々』。今じゃ曲のほうが記憶に残っている人が多いんじゃないかと思いますが、
1978年に公開されたこの映画、なんと舞台は飯田だそうです。一部、自転車も話にからんでいるらしい。
実は、私、まだ観てないので、内容をあまり云々できないわけですが、
なにしろ、私が初めて訪れる直前の飯田が出てくるということで、たまりませんわ。
そういうわけで、近いうちに買うぞ、と思いながら、アマゾンのリンクでご紹介します(実は売り切れにならないか、ちと心配)。


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